来た。
「銀三十枚! さあどうだ!」
ユダはマリアを抱き縮《すく》めた。
「まあお待ちよ、どれお見せ」
革財布をひったくり[#「ひったくり」に傍点]、一眼中を覗いたが、
「お気の毒さま、贋金だよ! 一度は妾も瞞《だま》されたが、へん、二度とは喰うものか! お前、カヤパに貰ったね。妾がカヤパに遣ったのさ」
ここ迄話して来た佐伯《さえき》氏は、椅子からヒョイと立ち上ると、ひどく異国的の革財布を、蒐集棚から取り出した。
「まあご覧なさい、これですよ、いまの伝説《はなし》の銀貨はね」
ドサリと投げるように卓《テーブル》の上へ置いた。
「私がエルサレムへ行った時、ある古道具屋で買ったもので勿論本物ではありません。あっちにもこっちにもあるやつでね。漫遊者相手のイカ物ですよ。……だが面白いじゃアありませんか、今も猶太《ユダヤ》の人間は、私がお話ししたように、キリストとユダとマリアとをそう解釈しているのですよ。そうして銀貨まで拵えて、理《もっとも》らしく売り付けるのです。猶太人に逢っちゃ敵《かな》わない。一番馬鹿なのがキリストで、その次に馬鹿なのがイスカリオテのユダ、そうしてその次がマリア嬢
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