で、一番利口なのが革商人ということになるのですからね」
私は銀貨を手に取った。厚さ五分に幅一寸、長さ二寸という大きな貨幣《もの》で、持ち重りするほど重かった。そうして昨日《きのう》鋳たかのように、ひどくいい色に輝いていた。
「恐ろしく重いじゃアありませんか」
私は吃驚《びっくり》して佐伯氏に云った。
「ほんとに猶太の古代貨幣は、こんなに恐ろしく重かったのでしょうか?」
「さあ、そいつは解《わか》りません。だが日本の天保銭なども、随分大きくて重かったですよ。……紋章が面白いじゃアありませんか」
いかにも面白い紋章であった。
「どうです私の今の話、小説の材料にはなりませんかね」
「ええなりますとも大なりです」
こうは云ったが私としては、そう云われるのは厭であった。大概の人は小説家だと見ると、定《き》まって一つの話をして、そうして書けというからであった。もう鼻に付いていた。
とは云え確かにこの話は、書くだけの値打はあるらしい。偶像破壊、価値転倒、そうして無神論、虚無思想が、色濃く現われているからであった。勿論書くならイスカリオテのユダを、当然主人公にしなければなるまい。
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「
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