衰えず落胆せざるべし」
「これも全くその通りだ。最後まで落胆しなかった。……はてな、それではあの男は、そういう事を予期しながら、なおかつ道を立てようとして、ああ迄精進したのだろうか?」
ユダはにわかに行き詰まった。
「よし預言者でないにしても、妄信者以上の何者か、偉大な人間ではなかったろうか?」
彼の胸は痛くなった。
「いけないいけないこういう考えは! 世の中に偉人なんかありはしない。あると思うのは偏見だ。生きている物と死んでいる物、要するにただそれだけだ。そうして生物の世界では、雄と雌とがあるばかりだ。雌だ! 女だ! あっ、マリア!」
ユダは周章《あわて》て懐中《ふところ》を探った。銀三十枚が入っていた。
マグダラのマリアは唄っていた。
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キリスト様が死んだとさ
[#ここで字下げ終わり]
「ふん、いい気味だ、思い知ったか。……妾《わたし》は最初《はじめ》あの人が好きで、香油《においあぶら》で足を洗い、精々ご機嫌を取ったのに、見返ろうとさえしなかったんだからね。そこでカヤパを情夫《いろ》にして、進めてあの人を殺させたのさ」
「マリア!」とユダが飛び込んで
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