したが、
「ご坊、どうしたらよかろうな?」
「仕事の首尾はどうなのかな?」
 あべこべに法師は訊き返した。
「それを訊いてどうするつもりか?」
「金に積ってなんぼ[#「なんぼ」に傍点]稼いだな?」
「たんともない、五千両ばかりよ」
「それだけの人数で五千両か」
「大きな事を云う坊主だ」
「それだけ皆置いて行け」
「何を!」と始めて頭目はその眼にキラキラと殺気を見せたが、
「ははあこいつ狂人《きちがい》だな」
「五千両みんな置いて行け」
 法師は平然と云った。自信に充ちた態度である。嘲笑うような声音である。


「こいついよいよ狂人だ。俺達を何者と思っているか!」
「俺は知らぬ。知る必要もない」
「一体貴様は何者だ?」
「見られる通りの乞食坊主さ」
「そうではあるまい。そんなはずはない」
 賊の頭目は相手の様子に少なからず興味を感じたらしく、
「名を宣《なの》れ。身分を宣れ」
「俺はな」と法師は物憂そうに、
「幸と云おうか不幸と云おうか、忘れ物をして来たよ」
「忘れ物をした? それは何だ?」
「磔《はりつけ》柱だ。磔柱だよ」
 賊共はにわかにざわめいた[#「ざわめいた」に傍点]。それか
前へ 次へ
全24ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング