郷介法師
国枝史郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)門《かど》の戸を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)豪商|魚屋《ととや》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いた
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1
初夏の夜は静かに明け放れた。
堺の豪商|魚屋《ととや》利右衛門家では、先ず小僧が眼を覚ました。眠い眼を渋々こすりながら店へ行って門《かど》の戸を明けた。朝靄蒼く立ちこめていて戸外《そと》は仄々と薄暗かったが、見れば一本の磔《はりつけ》柱が気味の悪い十文字の形をして門の前に立っていた。
「あっ」と云うと小僧平吉は胴顫いをして立ち縮んだが、やがてバタバタと飛び返ると、
「磔柱だア! 磔柱だア!」と大きな声で喚き出した。
これに驚いた家内の者は挙《こぞ》って表へ飛びだしたが、いずれも気味悪い磔柱を見ると颯《さっ》と顔色を蒼くした。
注進を聞くと主人利右衛門はノッソリ寝所から起きて来たが、磔柱を一|眄《べ
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