盗賊共は大恭悦で娘を手籠めにしようとした。頭目と見えて四十年輩の容貌魁偉の武士がいたが、ニヤニヤ笑って眺めている。娘はヒーッと悲鳴を上げ、逃げようとして※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いたが、これは逃げられるものではない。とうとう捉えられて担がれた。
「もうよかろう、さあ行くがいい」
 頭目は笑いながらこう云った。その時、傍の藪陰から一人の老法師が現われた。
「これ少し待て! 何をするか!」
 その法師は声を掛けた。落着き払った態度である。賊共はちょっと驚いて一|瞬間《しきり》にわかに静まった。
「俺の娘をどうする意《つもり》だ」
 法師はまたも声を掛けた。嘲笑うような声である。
「これはお前の娘なのか」
 賊の頭目は笑いながら、
「それは気の毒な事をしたな、野郎共娘を返してやれ」
 そこで娘は肩から下され枯草の上へそっと置かれた。
 賊共はガヤガヤ行き過ぎようとする。
「これ少し待て! 礼を知らぬ奴だ!」
 法師は背後《うしろ》から声を掛けた。
「他人《ひと》の娘を手籠めにして置いて謝罪せぬとは何事だ!」
「なるほど、これはもっともだ」
 賊の頭目は苦笑い
前へ 次へ
全24ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング