》つきはしますまいか?」
「馬鹿を云え」と秀吉は云った。
「そんな事ぐらいで損つく威光なら、それは本当の威光ではない」
「いよいよ遣わすのでござりますか?」
まだ利休には未練がある。
「賊に茶碗を望まれて、そいつを俺がくれてやったと知れたら、俺の方が大きく見られる。……それに俺にはその泥棒がちょっと恐くも思われるのだ」
「殿下が賊をお恐れになる?」
利休はますます吃驚《びっくり》する。
「世間で何が恐ろしいかと云って、我無洒羅《がむしゃら》な奴ほど恐ろしいものはない」
「ははあ、ごもっともに存じます」
利休は始めて胸に落ちたのである。
大阪市外阿倍野の夜は陰森として寂しかった。と、数点の松火《たいまつ》の火が、南から北へ通って行く。同勢百人足らずである。それは晩秋深夜のことで寒い嵐がヒュー、ヒューと吹く。斧を担《かつ》ぎ掛矢を荷い、槍薙刀を提《ひっさ》げた様子は将しく強盗の群である。
行手にあたって十八九の娘がにわかに胸でも苦しくなったのか、枯草の上に倒れていた。夜眼にも美しい娘である。
「や、綺麗な娘ではないか」
「こいつはとんだ好《い》い獲物だ」
「それ誰か引担いで行け
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