ら森然《しん》と静まった。
賊の頭目は眼を見張ったが、やがてポンと手を拍った。
「ははあ左様か。そうであったか。磔柱の郷介《ごうすけ》法師か」
「ところでお主《ぬし》何者かな?」
「私《わし》は五右衛門だ。石川五右衛門だ」
すると今度は法師の方でポンとばかりに手を拍った。
「うん、そうか、無徳《むとく》道人だったか」
「郷介法師、奇遇だな」
「いや、全く奇遇だわえ」
「私はお主に逢いたかった」
「私もお主に逢いたかったものさ」
「で、五千両入用かな?」
「五右衛門と聞いては取られもしまい」
「せっかくのことだ、半金上げよう」
「金には不自由しているよ」
「私の所へ来てはどうか?」
「今どこに住んでいるな?」
「洛外嵯峨野だ。いい所だぞ。……ところでお主はどこにいるな?」
「私は雲水だ。宿はない」
「私の所へ来てはどうか?」
「まあやめよう。恐いからな」
「ナニ恐い? 何が恐い?」
「恐いというのは秀吉の事さ」
「成り上り者の猿面冠者か」
「私はあいつから茶碗を貰った」
「それが一体どうした事だ」
「そこで恐くなったのさ」
「何の事だか解《わか》らないな」
「彼奴《きゃつ》、殿下にも
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