めされ! これ迄明かせば浮田家の内情、あれは悉皆出鱈目じゃ。さて拙者はここを立ち退き船山城へ伺候致し須々木豊前殿へ仕官する所存、苦情があらば遠慮なく船山城の方へ申し越されい。永居は惶《おそ》れハイ左様なら!」
 云い捨てクルリと馬の首を東南へ向けて立て直すと、颯《さっ》とばかりに走らせた。人馬諸共一瞬の後には木陰へ隠れて見えなくなった。

 戦国時代の武将達は一芸に秀でた武士と見ると善悪を問わず抱えたものである。で、郷介は何の苦もなく須々木豊前守に抱えられたが、これを怒ったのは最所治部で、治部は直ちに使者を遣わし、岡郷介を取り戻そうとした。しかし須々木家では相手にしない。
「岡郷介と宣《なの》る武士、当城内には決して居らぬ」
 これが須々木家の返事であった。
 治部たる者ますます怒らざるを得ない。
「郷介の父の郷左衛門を船山城の大手へ連れ行き、磔《はりつけ》柱へ付けてしまえ!」
 踴り上り踴り上り最所治部は狂人のように叫んだものである。


 郷介が最所家を逐転[#「逐転」はママ]して以来、父郷左衛門は観念して死の近付くのを待っていた。いよいよその日が遣って来ると、彼は下僕の杢介《も
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