間に、倍実《のぶさね》筆の山水の軸が、大きくいっぱいに掛けられてあり、脇床の棚の上には帙《ちつ》に入れられた、数巻の書が置かれてあり、万事正式の布置であって、驚くことはなかったが、ただ一つだけ床ノ間に、陰陽二張の大弓と、二十四條の箭《や》を納めたところの、調度掛が置いてあったことが、正次の眼を驚かせた。しかも定紋は菊水《きくすい》であった。
「ム――」と何がなしに正次は唸って、調度掛の前へいざり寄った。
その同じ夜のことであった。異装の武士の大衆が、京の町を小走っていた。人数は三十五人もあったが、いずれも一様に裸体であり、髪は散らして太い縄で、結び目を額に鉢巻し、同じく荒縄を腰に纏い、それへ赤鞏《あかざや》の刀を差し、脚には黒の脛巾《はばき》を穿き、しかも足は跣足《はだし》であった。が、その中のは脛《すね》へばかり、脛当をあてた者があり、又腕へばかり鉄と鎖の、籠手《こて》を嵌めたものがあり、そうかと思うと腰へばかり、草摺《くさずり》を纏った者があった。手に手に持っている獲物といえば、鉞《まさかり》、斧、長柄《ながえ》、弓、熊手、槍、棒などであった。先へ立った数人が松明《たいまつ》を
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