うござるな! 欲しゅうござるな。……さてこの度は何奴を!」
満月に引いてグッと睨んだ。
6
自分の部下を目前において、二人まで射倒された雉四郎は、怒りで思慮を失ってしまった。箭に対して刀を構えようとはせず、持っていた槍を引きそばめ、衆の先頭へ走り出た。
「やあ汝《おのれ》よくもよくも、我等の味方を箭先にかけ、二人までも射て取ったな。もはや許さぬ、槍を喰らって、この世をおさらば、往生遂げろ!」
叫びながら驀進《まっしぐら》に、正次目掛けて走りかかった。
(いよいよ此奴《こやつ》を!)と日置正次、引きしぼり保った十三|束三伏《ぞくみつぶせ》、柳葉《やなぎは》の箭先に胸板を狙い、やや間近過ぎると思いながらも、兵《ひょう》ふっ[#「ふっ」に傍点]とばかり切って放した。
狙いあやまたず胸板を射抜き、本矧《もとはぎ》までも貫いた。
末期の悲鳴、凄く残し、槍を落とすとドッと背後へ、雉四郎は仆れて死んだ。頭目を討たれたあばら組の余衆、競ってかかる勇気はなく、雉四郎の死骸さえ打ち捨て、ドーッと裏門からなだれ出た。
半刻《はんとき》あまりも経った頃、正次と篠姫と和田兵庫とが、書院でつつまし
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