山の方より、拙者を目掛けて箭を射かけたる……」
「それとて貴殿の力倆|如何《いか》にと、失礼ながら試みました次第……」
「…………」
矢声は掛けなかった! それだけに懸命! 切って放した正次の箭! 悲鳴! 中《あた》った! 足を空に、もんどり[#「もんどり」に傍点]討って倒れたのは、雉四郎の前に立ちふさがった、敵ながらも健気《けなげ》の武士であった。
ワーッとどよめき崩れ引く敵! しかも遥かに逃げのびながら、またもハラハラと箭を射かけた。と薙刀を渦巻かせ、和田兵庫は正次の前方、書院の縁の端に坐り、片膝をムックリと立てていた。
「いざ、三ノ箭! 遊ばしませ」
姫が差し出した三本目の箭を、素早く受けると日置正次、矢筈に弦を又もつがえ、グーッと引いて満を持した。
「その楠氏の姫君が、何故このような古館に?」
「洞院左衛門督信隆《とういんさえもんのすけのぶたか》卿、妾の境遇をお憐れみ下され、長年の間この館に、かくまいお育て下されました。しかるに大乱はじまりまして、都は大半烏有に帰し、公卿方|堂上人《どうじょうびと》上達部《かんだちめ》、いずれその日の生活《たつき》にも困り、縁をたよって九
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