》たけた美女が端坐していた。
「貴女《きじょ》は?」と正次は驚きながら訊ねた。訊ねながらも油断無く、弦《ゆみ》に矢筈《やはず》をパッチリと嵌め、脇構えに徐《おもむろ》に弦《つる》を引いた。
「この家の主人《あるじ》にござります。……」
「では先刻の……今様《いまよう》の歌主?」
云い云い八分通り弦を引き、
「ご姓名は? ……ご身分は?」
「楠氏の直統、光虎《みつとら》の妹、篠《しの》と申すが妾《わらわ》にござります」
「おお楠氏の? ……さては名家……その由緒ある篠姫様が……」
ヒューッとその時数條の箭が、敵方よりこなたへ射かけられた。と、瞬間に正次の眼前、数尺の空で月光を刎ねて、宙に渦巻き光る物があった。
「おッ」――キリキリと弦を引き、さながら満月の形にしたが「おッ」とばかりに声を洩らし、正次は光り物の主を見た。一人の老人が小薙刀を、宙に渦巻かせて箭を払い落とし、今や八双に構えていた。
「や、貴殿は? ……」
「昼の程は失礼」
「うーむ、和田の翁でござるか」
「すなわち楠氏の一族にあたる和田|新発意《しんぼち》の正しい後胤、和田|兵庫《ひょうご》と申す者。……」
「しかも先刻築
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