は確かに凄じくはござるが、狙いは未熟で恐るるところはござらぬ。冑の前立をかつかつ[#「かつかつ」に傍点]射落とし、眉間を外した技倆《うで》で知れる!」
 すると正次は嘲るように云った。
「雉四郎とやら愚千万、昔|保元《ほうげん》の合戦において、鎮西《ちんぜい》八郎|為朝《ためとも》公、兄なる義朝《よしとも》に弓は引いたが、兄なるが故に急所を避け、冑の星を射削りたる故事を、さてはご存知無いと見える。拙者先刻も申した通り、我と貴殿と恩怨ござらぬ、それゆえ故意《わざ》と眉間を外し、前立の鹿角を射落としたのでござるぞ。それとも察せずに只今の過言、狙いは未熟とは片腹痛し、おお可々《よしよし》ご所望ならば、二ノ箭にてお命いただこう。……参るゾーッ」と背後《うしろ》を振り返り、床の間にある調度掛の箭を、抜き取ろうとして手を延ばした。


 途端に箭が一條眼の前へ出された。
「いざ、これで、遊ばしませ」
「うむ」と思わず声を上げ、その箭を取ったが眼を据えて見た。その正次の眼の前に、――だから正次の背後横に、髪は垂髪、衣裳は緋綸子、白に菊水の模様を染めた、裲襠《うちかけ》を羽織った二十一二の、臈《ろう
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