無名指ト中指ニテ大指ヲ圧シ、指頭ヲ弦ノ直堅《チヨクケン》に当ツ! 之《コレ》ヲ中国ノ射法ト謂《イ》フ! 正次の射法はこれであった。満を持してしばらくもたせたが「曳《えい》!」という矢声! さながら裂帛! 同時に鷲鳥の嘯くような、鏑の鳴音響き渡ったが、源三位頼政《げんざんみよりまさ》鵺《ぬえ》を射つや、鳴笛《めいてき》紫宸殿《ししんでん》に充つとある、それにも劣らぬ凄まじい鳴音が、数町に響いて空を切った箭! 見よおりから空にかかった、遅い月に照らされて、見えていた恩地雉四郎の、鹿角の前立を中程から射切り、しかも箭勢《せんぜい》弱らずに、遥かあなたに巡らされている、築土の塀に突き刺さった。
 ド、ド、ド、ド――ッという足音がして、この弓勢《ゆんぜい》に胆を冷やした、あばら組三十五人は、一度に後へ退いた。が、さすがに雉四郎ばかりは、一党の頭目であったので、逃げもせず立ったまま大音を上げた。
「やあ汝出過者め、無縁とあらば事を好まず、穏しく控えて居ればよいに、このあばら組に楯衝いて、箭を射かけるとは命知らずめ、問答無益、出た杭は打ち、遮る雑草は刈取らねばならぬ! さあ方々おかえりなされ! 弓勢
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