す奴原《やつばら》、討ち取って仔細無き奴原でござる!」
「応」と云うと日置正次は、調度掛にかけてある陽の弓、七尺五寸、叢重籐《むらしげどう》、その真中《まんなか》をムズと握り、白磨箆鳴鏑《しろみがきべらなりかぶら》の箭《や》を掴むと、襖をあけて縁へ出た。
「寄せて来られた方々に申す。拙者は旅の武士でござって、今宵この館に宿を求めた者、従って貴殿方に恩怨はござらぬ。又この館の人々とも、たいして恩も誼《よしみ》もござらぬ。がしかしながら見受けましたところ、貴殿方は大勢、しかのみならず、武器をたずさえて乱入された様子、しかるに館には婦人と老人、たった二人しかまかりあらぬ。しかも二人に頼まれてござる。味方するよう頼まれてござる。拙者も武士頼まれた以上、不甲斐なく後へは引けませぬ。……そこで箭一本参らせる。引かれればよし引かれぬとなら、次々に箭を参らせる」
 云い終わると箭筈《やはず》を弦に宛て、グーッとばかり引き絞った。狙いは衆人の先頭に立ち、槍を突き立て足を踏みひらき、鹿角打った冑をいただいている、その一党の頭目らしい――すなわち恩地雉四郎の、その冑の前立であった。弦ヲ控《ヒ》クニ二法アリ、
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