つみ》の方角に、お屋敷が立っておりましたっけ。それも因縁づきのお屋敷が。……尾張様の先々代|継友卿《つぎともきょう》が、お家督《よつぎ》の絶えた徳川|宗家《そうけ》を継いで、八代の将軍様におなりなさろうとしたところ、紀伊様によって邪魔をされて、その希望《のぞみ》が水の泡と消え、紀伊様が代わって将軍家になられた。当代の吉宗《よしむね》卿で。……その憂欝《ゆううつ》からお心が荒《すさ》み、継友様には再三家臣をお手討ちなされましたが、その中に、平塚刑部様という、御用人があり、生前に建てた庄内川近くの別墅《やしき》へ、ひどく執着を持ち、お手討ちになってからも、その別墅へ夜な夜な姿を現わされる。――という因縁づきのお屋敷なので。
(流れ屑が自然《ひとりで》に沈む淵があったり、化け物屋敷があったりして、この界隈《かいわい》は物騒だよ)と、私は呟《つぶや》いたことでした。
二
(おや)と驚いて川添いの堤へ眼をやったのは、それから間もなくのことでした。野袴《のばかま》を穿《は》き、編笠《あみがさ》をかむった、立派なみなりのお侍様五人が、半僧半俗といったような、円《まる》めたお頭《つむ》
前へ
次へ
全30ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング