怪しの者
国枝史郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)靄《もや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)先々代|継友卿《つぎともきょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「にんべん+悄のつくり」、第4水準2−1−52]《やつ》して
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一
乞食の権七が物語った。
尾張の国春日井郡、庄内川の岸の、草の中に寝ていたのは、正徳三年六月十日の、午後のことでありました。いくらか靄《もや》を含んでいて、白っぽく見えてはおりましたが、でもよく晴れた夏の空を、自分の遊歩場《あそびば》ででもあるかのように、鳶《とび》が舞っておりましたっけ。
ふと人の気勢《けはい》を感じたので、躰《からだ》を蔽《おお》うている草の間から、わたしはそっちを眺めました。
二十八、九歳の職人風の男が、いつのまにやって来たものか、わたしのいるところから数間《すうけん》はなれた岸に、佇んでいるではありませんか。(はてな?)とわたしは思いながら、その
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