点]にかげをつけており、高い白堊の天井の、油絵の図案を輝かせている。――というまでに過ぎなかった。
 とはいえ時代は文政である。所は江戸の郊外である。そういう時代のそういう所に、こういう部屋のあるということは、かなり驚いてもよいことであった。
 さらに驚くべきものがあった。
 とはいえそれとて一口にいえば、一枚の張り紙に過ぎないのではあるが――だがその張り紙に書かれてある、四ツの箇条書きを見た人は、非常に驚くに相違ない。
 時計の真下、振子の下に、張り紙は張ってあるのであった。
「八分前だ!」
 呻くような声! 琢磨の口から出たのである。
 と、島子の声がした。
「こちらをお向きなさいまし」
 だが琢磨はまたいった。
「四分前だ! もうすぐだ!」
「こちらをご覧なさいまし。きっと見ることが出来ましょう! 私の肌を!」
 やっぱり琢磨呻くようにいう。
「三分前だ! もうすぐだ! そうしたら解放されるだろう!」
 あせった島子の声がした。
「あなたは見ることが出来ましょう! 私の肌を!」
 だがまた呻くように琢磨がいった。
「後二分だ! 後二分だ」
 同じく呻くように島子がいう。
「ご覧な
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