ら長く垂れ、規則正しく揺れている。で、そこから音が聞こえる。カチ、カチ、カチ、……カチ、カチ、カチ! ――セコンドを刻む音である。
 長針と短針とが矢のように、白い平盤の表面に、矩形をなして突き出ている。その周囲を真円に囲み、アラビア文字が描かれてある。短針は十二時を指そうとしている。しかし長針は十時にあった。
 カチ、カチ、カチ、……カチ、カチ、カチ、……時は刻々に移って行く。
「十分前だ!」
 呻くような声! 琢磨の口から出たのである。冷静な顔や態度にも似ず、息詰まるような声であることよ!
 カチ、カチ、カチ……カチ、カチ、カチ!
 時は刻々に移って行く。
 二人の男女を包んでいるところの、部屋の様子というものも、まことに異様なものであった。

        十二

 とはいえ今日の眼から見れば、洋風の書斎に過ぎないのではあるが。
 壁の一方にドアがあり、壁の一方に窓があり、巨大な書棚が並んでおり、書物がギッシリ詰まっており、数脚の椅子と卓とがあり、洋燈が卓の上に燃えており、それに照らされて青磁色をした、床の氈《かも》が明るんでおり、同じ色をした窓掛けが、そのひだ[#「ひだ」に傍
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