怪しの館
国枝史郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)誘拐《かどわか》す
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)終夜|紙魚《しみ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)武士はそっけ[#「そっけ」に傍点]ない。
−−
一
ここは浅草の奥山である。そこに一軒の料理屋があった。その奥まった一室である。
四人の武士が話している。
夜である。初夏の宵だ。
「どうでも誘拐《かどわか》す必要がある」
こういったのは三十年輩の、いやらしいほどの美男の武士で、寺侍かとも思われる。俳優といってもよさそうである。衣裳も持ち物も立派である。が、寺侍でも俳優でもなく、どうやら裕福の浪人らしい。
「どうして誘拐いたしましょう?」
こうきいたのは三十二、三の武士で、これは貧しい浪人らしい。左の小指が一本ない。はたしあいにでもまけて切られたのだろう。全体が卑しく物ほしそうである。
「そこはお前達工夫をするさ」
美男の武士はそっけ[#「そっけ」に傍点]ない。
「どうしたものかの?」
と小指のない武士は、一人の武士へ話
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