しかけた。誘拐の相談をしたのである。
「さればさ」
といったのは、二十八、九の、これも貧しげで物ほしそうで、そうして卑しげな浪人であったが、頤にやけど[#「やけど」に傍点]のあとがあった。「姿をやつして立ち廻り、外へ出たところをさらうがよかろう」
「駄目だ、駄目」
と抑えたのは例の美男の武士であった。
「期限があるのだ、誘拐の期限が。それを過ごすと無駄になる。外へ出たところをさらうなどと、悠長なことはしていられない。今夜だ、今夜だ、今夜のうちにさらえ」
「では」
といったのはもう[#「もう」に傍点]一人の武士で、四十がらみで薄あばたがあり、やはり同じく浪人と見え、衣裳も大小もみすぼらしい。
「ではともかくも姿をやつし、屋敷の門前を徘徊し、様子を計って忍び込み、何んとか玉を引き上げましょう」
「それがよかろう。ぜひに頼む」――美男の武士はうなずいた。「しかし一方潜入の方も、間違いないように手配りをな」
「この方がかえって楽でござる」こういったのはやけど[#「やけど」に傍点]のある武士で、「人殺し商売は慣れておりますからな」
「それにさ」と今度は薄あばた[#「あばた」に傍点]のある武
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