さりませ! ご覧なさりませ! 白い私を! 真っ白い私を!」
「後一分!」
「素裸体《すはだか》の私!」
だが、その時音がした。
十二時を報ずる時計の音!
同時に庭から声がした。声というより悲鳴であった。しかも断末魔の悲鳴であった。しかも二人の悲鳴であった。
同時に寝台からも声がした。これもやっぱり悲鳴であった。やはり断末魔の悲鳴であった。
ギーッ! 音だ! ドアが開いた。
「あなた!」
「娘か!」
「いいえ葉末!」
「葉末というのか?」
「あなたの花嫁!」
ひらかれたドアから現われたのは、花嫁姿の葉末であった。
「おいで!」
と琢磨、手をひろげた。
で、葉末と三蔵琢磨、はじめてやさしく抱擁した。
その時壁からヒラヒラと、床の上へ落ちたものがある。
四ヵ条を記した張り紙である。
風かないしは幽霊の手か? どっちかがその紙を壁から放し、床の上へ落としたに相違ない。
十三
「何んでもなかったのでございますよ。つまり私の役目といえば、用心棒に過ぎなかったので。原因は四ヵ条を書き記した、張り紙なのでございますよ。で、それからいうことにしましょう。(一)養
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