、部落の中から、日本の歌の聞こえるのは何んと解釈したものであろう?
「何んという不思議なことだろう?」
 小豆島紋太夫は佇《たたず》んでしばらく歌声に耳を澄ました。
「歌の主を探し当てよう。それが何よりの急務である」
 ――で、紋太夫は足を早め、声のする方へ辿《たど》って行った。
 行くに従って歌声は次第にハッキリ聞こえて来た。歌の文句も聞き取れた。
「あれは万葉の古歌ではないか。これはどうでも歌の主は日本の人間に相違ない」
 こう考えて来て紋太夫は怪しく心の躍るを覚えた。彼はとうとう駈け出した。
 林の中へはいった時、石に腰かけた土人老婆が、無心に歌をうたっているのを、微光《うすびかり》の中に見て取った。
「や、日本の人間ではない!」
 紋太夫は叫んだものである。と、老婆は歌を止め、紋太夫をつくづく眺めたが、流暢《りゅうちょう》な日本語で話しかけた。
「おおあなたは日本人ですね」
「さよう、私は日本人」
「助けてください助けてください!」
 老婆は大地にひざまずき、日本流に合掌した。
「助けてやろうとも助けてやろうとも、しかし何を助けるのです」
「妾は聖典を盗まれました」
「何、聖典
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