やって来た。八歳の壺皇子がそれとは知らず嬉々として祭壇へ上った時火が薪木へ掛けられた。しかし神は非礼を受けず忽ち奇蹟を現わされた。忽然巨大な一振りの剣《つるぎ》が雲の中から現われ出たが、まず継母の首を斬り、次いで壺皇子を束《つか》へ乗せ、どことも知れず翔《か》け去ったのである。
 剣は皇子を乗せたままチブロン島まで翔けて来たが、そこで一旦地上へ下り、さらに虚空を斜めに飛び窟《いわや》の中へ飛び込んだ。
 この神秘境へ来たのである。
 活ける剣は窟の中で壺皇子を人知れず養育した。皇子の寂寥を慰めるために人界から人間を連れて来た。その人間は次第に殖え、ここに部落を形成《かたちづく》った。
 そこで壺皇子はその部落の帝王として君臨した。
 部落は平和に富み栄え、壺皇子は数百年活き延びたが、天寿終って崩御《ほうぎょ》するや、人民達はその死骸《なきがら》を林の中へ埋葬し神に祀って壺神様と云った。御神体は活ける剣である。
 その後部落は一盛一衰、幾多変遷はあったものの、今に及んで絶えることなく、不思議な国家として存在した。――以上は島の土人によって、今も語られる伝説なのである。
 それはそれとして
前へ 次へ
全113ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング