何物ぞ? それには一場の物語がある。

        十五

 昔々遙かの昔に、墨西哥《メキシコ》の国ガイマスの地にガイマス王という国王があった。その王子を壺皇子《つぼみこ》と云ったが、早く母上と死に別れ、継母《ままはは》の手で育てられた。多くの継母がそうであるようにこの継母も継子を憎みどうぞして壺皇子を殺そうとした。
 壺皇子八歳の時であったが、天変地妖相継いで国内飢餓に襲われた。その時継母は国王に云った。
「神のお怒りでござります。神様が何かを怒らせられ飢餓を下されたのでござります。大事な宝を犠牲《にえ》として、お怒りを和《なだ》めずばなりますまい」
「犠牲《にえ》には何を捧げような?」
「一番大切な宝物を」「一番大切な宝物とは?」「壺皇子をお捧げなさりませ」
「なるほど俺《わし》の身にとって皇子より大事なものはない。皇子を捧げずばなるまいかな」
「皇子を犠牲となされずば神の怒りは解けますまい」
「人民のため国家のため、それでは壺皇子を捧げる事にしよう」
 王は悲しくは思いながらも継母の甘言に心迷い壺皇子を犠牲にすることにした。
 祭壇が築かれ薪木《たきぎ》が積まれ犠牲を焚く日が
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