! 聖典とは?」
「それには諸※[#二の字点、1−2−22]《もろもろ》の尊い智恵が記されてあるのでございます」
「そうして誰が盗んだのだ?」
「旅籠屋《はたごや》の主人でござります」
「その旅籠屋はどこにある!」
「林の奥でござります」
「では俺が取り返してやろう」
「どうぞお願い致します。どうぞお願い致します」
「それにしても不思議だな。どうして日本語を知っておるな?」
「それには訳がございます。いずれお話し致します。聖典をお取り返しくださいませ」
「心配するな。取り返してやる」
 紋太夫は林を分け奥へ奥へと進んで行った。
「重ね重ね不思議なことだ。いろいろの事件にぶつかる[#「ぶつかる」に傍点]わい」
 行っても行っても深い林は容易に尽きようとはしなかった。

        十六

 建物の様子でそれと知れる土人|旅籠《はたご》の前まで来た時、その戸口から一人の土人が、笑いながら現われた。筋骨逞しい若者である。
 何か紋太夫へ話しかけたが、土人語で要領を得ない。
 そこで、度々の経験で、今はすっかり熟達している、例の手真似で紋太夫はその若者へ話しかけた。
「お前の所は旅籠屋かな
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