云われても頑強《かたくな》に、頭領がいると叫ぶのであった。
「いえ血迷いは致しませぬ。この眼で見たのでございます」
「そうか」ととうとう十平太も不審の小首を傾《かし》げるようになった。と、見て取った手下どもは一時にゾッと身顫《みぶる》いをした。迷信深い賊の常として、幽霊を連想したのであった。
十平太は腕を組んでしばらく考えに沈んでいたが、バラリ腕を解くと歩き出した。
「よろしい、行って確かめてやろうぞ」
胴の間の頭領の部屋は、諸国の珍器で飾られていた。
印度《インド》産の黒檀の卓子《テーブル》。波斯《ペルシャ》織りの花|毛氈《もうせん》。アフガニスタンの絹窓掛け。サクソンの時計。支那の硯。インカ帝国から伝わった黄金《こがね》作りの太刀や甲《かぶと》。朝鮮の人参は袋に入れられ柱に幾個《いくつ》か掛けてある。
と、正面の扉《と》が開いて、十平太がはいって来た。すると部屋の片隅のゴブラン織りの寝台《ねだい》から嗄れた声が聞こえて来た。――
「おお十平太か、よいところへ来た。ちょっとここへ来て手伝ってくれ」
頭領小豆島紋太夫の声に、それは疑がいないのであった。
はっ[#「はっ」に
前へ
次へ
全113ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング