で道を間違える心配はない。
半刻余りも歩いた頃、遙か行く手の闇を染めて薔薇色《ばらいろ》の光が射して来た。
「ははあ、何者かいるらしい。いずれ悪者の仲間であろう」
呟《つぶや》きながら紋太夫は足早にそっちへ進んで行った。はたして一人の大男が、狭い坑道に立ちはだかり[#「はだかり」に傍点]、豪然《ごうぜん》と焚火《たきび》に当たっていたが、紋太夫を見ると、手を拡げ、大きな声で叫び出した。何の事だか解らない。
そこで紋太夫は十八番の手真似をもって話しかけた。
「何用あって俺を止めた」まずこれから食ってかかる。
「見れば見慣れない人間だが、貴様はいったい何者だ?」大男は聞き返した。
「俺は東邦の人間だ。壺の神の神殿へ行く」
「おお行きたくば行くがよい。しかしその前にこの関門を、貴様どうして通るつもりだ」
「関門とは何だ? 何が関門だ?」
「すなわちここが関門よ。そうして俺こそ関守《せきもり》よ」
「関門であろうと関守であろうと、俺は腕ずくで通って見せる」
「腕ずくでは駄目だ、智恵で通れ」
「おお面白い。何でも尋《たず》ねろ。紋太夫即座に答えて見せる」こう云うとポンと胸を打った。
「それ
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