遠い遠い窟の奥に、壺神様の神殿がおありなさるのでございます。そうしてそこには蛇使いの恐い恐いお婆さんが、沢山の眷族《けんぞく》を引き連れて、住んでいるそうでございます。壺神様のご神体は剣《つるぎ》だそうでございます。それもただの剣ではなく、活き剣だそうでございます。物を云ったり歌を唄ったり歩いたりするそうでございます。恐い蛇使いのお婆さんは、神主《かんぬし》なのでございます」
 これが巫女《みこ》の話であった。紋太夫は早くも感付いた。
「土人酋長オンコッコめが、俺に取って来いと云ったのは、この活き剣の事だったのか。取って来いなら取っても来よう。活き剣とは面白い」
 で、手真似《てまね》で巫女《みこ》に訊いた。
「壺神様の神殿へはどう行ったらよいのかね?」
「奇数、偶数、奇数、偶数と、こう辿っておいでになれば、参られるそうではございますが、しかし行く事は出来ますまい」
「何故行くことが出来ないな?」
「行く道々悪者どもが蔓延《はびこ》っているそうでございます」
「とにかく私は行くことにしよう」
「これまで沢山の人達がその活き剣を取ろうとして、幾度《いくたび》行ったか知れませぬ。けれどその
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