そっと立ち上がって歩いて見た。
「これが右だ。石の壁らしい。……これが左だ。やはり石壁か。……これが正面。これも石の壁だ。……さて背後《うしろ》はどうだろう? やはり石壁じゃあるまいかな?」
で、背後《うしろ》へ手をやって見た。スベスベとして酷く冷たい。石ではなくて鉄の壁らしい。
「鉄とあっては石壁よりまずい[#「まずい」に傍点]。おや、待てよ、変なものがあるぞ。……や、これは金《かね》の錠だ!」
力をこめて捻《ね》じって見た。金が腐っていたのであろう、何んの苦もなく捻じ切れた。とたんに鉄の扉がギーと開いて冷たい風が吹いて来た。
どうやら道でもあるらしい。
十三
窟《いわや》の中の生活には昼もなければ夜もない。いつも四辺《あたり》は闇である。その闇々たる窟の中で、土人の巫女《みこ》を話し相手として焚火《たきび》の火で暖を取り、小豆島《あずきじま》紋大夫は日を送った。
会話と云っても手真似《てまね》である。その覚束《おぼつか》ない手真似をもって、ようやく紋太夫が聞き出したのは、壺神様《つぼがみさま》の事である。
「この窟の奥、五里も八里も隔《へだ》たっている
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