使い、盗める曲の「死に行く人魚」の歌を歌う)

[#ここから2字下げ]
屍には白き藻草を着せかけん、
瞳の閉じし面には
かぐろき髪の幾筋を
鈴蘭の花をのせて置く、
[#ここで字下げ終わり]

(この歌を歌いながらFなる魔法使いは女子の後背を通り、その正面一間半ほどの所に立ち、女子を熟視す、女子は、「死に行く人魚」の歌を聞き、ふと[#「ふと」に傍点]首を上げてFなる魔法使いをすかし見る)
女子 誰れなの。(と考え、急に声をはずませ)若様ではござりませぬか、その歌を歌うのは若様より他にない。貴郎は若様?
Fなる魔法使い (「死に行く人魚」の歌を歌う)

[#ここから2字下げ]
声もとどかぬ水底の
水の都の同胞は
行方知れずの人魚を
浮藻の恋になぞらえて
はかなきものと語り合う、
[#ここで字下げ終わり]

女子 (Fなる魔法使いの方に両手を差し出し)若様、若様、ああ貴郎は若様だ!……若様はまだ死にはせぬ。……ね、若様。
Fなる魔法使い (「死に行く人魚」の歌を歌う)

[#ここから2字下げ]
わだつみなれば燐の火の
屍を守ることもなく
珊瑚の陰や渦巻の
泡の乱れの片陰に。
[#ここで字下げ
前へ 次へ
全154ページ中99ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング