終わり]

女子 (二三歩あゆみ寄る)若様、若様! ほんとに貴下は若様でござりましょう。……その歌をお歌いなさる人は世の中にただ若様お一人きりよ。……若様! 若様!
Fなる魔法使い (銀の竪琴を指し)これを見ろ!
女子 銀の竪琴!
Fなる魔法使い (紫の袍を示し)これを見ろ!
女子 紫の袍よ!
Fなる魔法使い (桂の冠を指し示し)女よ! これを見ろ!
女子 (声を震わせ)ああ、ああ、それは桂の冠!
Fなる魔法使い (無音にて自分の瞳を指す)
女子 (片膝をつき)Fなる魔法使い!
Fなる魔法使い (今度は「暗と血薔薇」の歌を唄う)

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暗がわが身をとりかこむ
裸身なれど恥《はじら》わじ、
抱く男のやわ肌を
燃ゆる瞳にさがさばや。
[#ここで字下げ終わり]

女子 その歌を歌うは誰れなの?
Fなる魔法使い 血薔薇をお前にくれた男だ。(と「暗と血薔薇」の歌を歌う)

[#ここから2字下げ]
罪が巣くいし血薔薇とて、
恋の生身を刺すとかや、
暗なれば血は見えずして。
[#ここで字下げ終わり]

(口調ある朗吟的の言葉にて)女よ、窓を通して音楽堂を見ろ! 青い燈火が点《つ》
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