白きものチラチラす)
従者 (急に姿勢を直《ただ》し)私は何時《いつ》までも、此処にこうしておられる体ではござりませぬ。私は直《す》ぐに馳せ戻り、あの葬式のお先導をして、小船を漕がねばなりませぬ。(女子に一礼し)お嬢様、これでごめんをこうむります。――(と急ぎ左の口より退場。女子は従者の退場と共に寝台に仆れ、面に手をあてて泣き、またたちまち起き上がり、窓口に行きて白き柩の一列を眺めやり)
女子 若様! 若様! (寝台へ再び仆れて忍び泣く。二人の使女は途方に暮れ、場内を二度ばかり歩き廻りし後、寝台の女子をいたわらんとし、立ちよりしが、思い返して、たちまち窓口に行きて葬式の列を眺め、頷き合うて正面の出口より浜に向かって馳せ行く。正面の扉《と》はいっぱいに開け放され、月光に浮く紅き罌粟の花畑見ゆ――場内には女子一人となる。三分間静。やがて正面の出口の彼方、罌粟畑の中より、一人の人影立ち現われる。女子それを知らず。その人は、紫の袍を着て、桂の冠をかむり、銀の竪琴を持ちし騎士姿の音楽家即ち、Fなる魔法使いとす。Fなる魔法使いは銀の竪琴を鳴らしながら、罌粟畑より出でて場内に入り来る)
(Fなる魔法
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