死はそれから後でござりました。
女子 若様の横死……そして、そして、ああそれを早く話しておくれ……。若様の横……死……。
従者 その横死は、ああ、ああ、傷ましいとも、いじらしいとも……私始め一同が永久に忘れられぬその横死!
女子 早くそれを話しておくれ…………………………私のこの心が…………。
従者 はいはい今申し上げまするが……あ、傷《いたま》しや。……それからでござります。……よろしゅうござりますかお嬢様。……人々の拍手と感嘆との渦巻の間を、館のお殿様の手に捧げられて、月桂冠は、老人の方へ進んで行くのでござります、花束は天井や床にひるがえり、小供等は讃歌《ほめうた》を歌うその間を、月桂冠は老人の方へ進んで行くのでござります。
女子 月桂冠が……。
従者 月桂冠が今やまさに、老人の頭へ落ちようとした時に、天使の声が響き渡りました。『盗める曲に何を与う!』
女子 天使の声!
従者 若様が、そう叫ばれたのでござります。『盗める曲に何を与う』
女子 盗める曲に何を与う!
従者 立ちすくんでいた若様が満身の勇を振り起こし、天使のように、そう叫んで、壇上めがけて進みました。
女子 その時の人々
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