私共は存じませぬ。
女子 昨夜の大変の起こらない前までは、若様のお相手は、あの白髪の老人だと云うのだね。
使女A 左様でござります。
女子 そんなら今夜の若様のお相手も、あの白髪の老人に相違ない。
使女B 何故でござります。
女子 何故と云うても。
使女A 何故でござります。
使女B あんな騒ぎをひき起こした老人が、今夜あたり、音楽堂へ姿を現わす気づかいはござりますまいに。
女子 そう思うと間違うぞえ。
使女A そんなら、あの老人は今夜の競技に出るのだとお嬢様はお思い遊ばすのでござりますか。
女子 しかも銀の竪琴を持って。
使女B ほんにそう覚しめすのでござりますか。
女子 あの老人は、昨夜唯一度現われて、それっきり姿を隠すような、卑怯な者ではないのだぞえ。
使女A どうしてお嬢様は、それを御存知でいらっしゃります。
女子 (小声にて)Fなる魔法使い、Fなる魔法使い!
使女B どうしてお嬢様はあの老人が、再び現われるとおっしゃるのでござります。
女子 私の呪詛《のろ》われた神経が、そうだと私に教えている故。
使女 呪詛われた神経が?
女子 私の呪詛われた神経が、今夜再びあの老人が音楽堂
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