ものか。今夜で私の運命が(と言葉を切り)決定《きま》ってしまうのじゃないかえ。
使女B (当惑らしく)それはそうかも知れませぬが……。
女子 私の運命は、今に点ぜられる音楽堂の燈火の色で決せられてしまうのじゃないかえ。
使女A まだまだ間がござりましょう。
女子 間があると云ったとてほんのそれは知れたもの(と音楽堂を眺めやり)、あの頂上の窓へ赤い燈火の点《つ》く時は、沢山の音楽家の中で、誰かが桂の冠を貰うた時――ああそして私の運命が決まった時! (と忍び泣く。二人の使女は顔を合わせて、気の毒の表情。――静。やがて使女は小声にて語り合う)
使女A 音楽堂の内は、今どのようでござりましょう。
使女B 桂の冠と一緒にお嬢様を戴《いただ》こうと、幾百と云う騎士、音楽家が、セロやバイオリンを掻き鳴らし、互いに競い合っているでござりましょう。
使女A 誰が勝つでござりましょう。
使女B 誰が勝つでござりましょう。
使女A ほんに誰がお美しいお嬢様をお貰い遊ばすでござりましょう。
使女B 若様がお弾き遊ばすのは、「死に行く人魚」の歌とか云って、世界中でただ若様一人お知りなされる、悲しい歌だそうでござ
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