お嬢様はまだ此処においででござりましたか。
女子 若様と明晩の競技のお話をしていたところ。(やや小声にて)そして、あのお方は奥においでではなかったかえ。
使女B 浅黄色の袍の人、萌黄色の袍の人、蛋白石よりも涼しい白い色の袍の人は幾人もおいでになりますが、紫の袍の人は一人もおいでではござりませぬ。
使女A 真鍮に銀の鋲を打った冑、金襴で錏《しころ》がわりに装飾《よそお》った投頭巾《なげずきん》、輪頭形《りんどうがた》の冑の頂上に、雄猛子の鬚をつけた厳《いか》つい冠もの[#「冠もの」に傍点]、そのような冠もの[#「冠もの」に傍点]を冠《かむ》った方は数多く見えましたが、桂の冠をかむった方は一人もお見えなされは致しませぬ。
使女B そして銀の竪琴を持った人は一人おいでなされましたが、そのお人は、白髪の老人でござりました。
女子 ……白髪の老人……。(と不思議そうに考える。――奥にて盛んなる笑声と、楽器の音)
使女A 私共二人は若様とお嬢様とをお迎えに来たのでござります。お殿様が、若様とお嬢様とを、お客様の方々へ、紹介《ひきあわせ》るによって、連れて参れと申したのでござります。
使女B お殿様
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