人の力でござります。その個人の力は美より外にはござりませぬ。貴女はその美の権化でござりますもの、権力の源とも申されましょう。
女子 そのように私をお信じ下され、褒め讃えて下さる方は他に一人もござりませぬ。その唯一人きりの若様へあの不思議の物語、アラビヤあたりの童話にでもありそうな、幻《まぼろし》じみたお話を致すのは心苦しいことでござりますが、(間)思い切ってお話し致しましょう。けれど、今私がお話し致します夢よりはかない物語をお聞きなされたその後で、貴下が私を思い切り遊ばすのは、お心まかせでござりますが(間)、それと一緒に、たよりない私を、おさげすみ遊ばすようになることかと思えば、悲しい淋しい思いが致してなりませぬ。
公子 (女子の手を取り)それは全く貴女のおめがね違いと申すもの、私は決してそのような軽薄な心のものではござりませぬ。たとえその物語が祭の夜、裸体の男を見そめたと申すようなお話でも、また、猛獣の狂う砂漠の中で、メッカあたりへ渡って行く、カラバンの一人を、おしたいなされたと云うのでも、私は決して貴女をおさげすみ申すようなことは致しませぬ。(間)恋には天津乙女も土龍の穴まで下り、
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