いない。若が、若が……思った通りだ……。
従者 若様がどう致したのでござります。
領主 若があの女子を……。
従者 (高殿を見上げ)そんなら若様が、あの女子にお心があると申すのでござりますか、私ももしやとは思っておりましたが……。
領主 それに違いはない。若はあの通りの熱情家である上に、年も若く気も若い。その上、母に似て恋の美しい幻影には人一倍|憧憬《あこが》れる性質の若者だ。(沈思)それに、若も明晩の音楽の競技には出場すると云うではないか。
従者 はい、それはそれは大変な意気ごみでござります。必ず競争に打ち勝って、月桂冠を得ると申しておりまする。
領主 ふむ、必ず勝って月桂冠を得ると申しておるか。
従者 ハイ、そう申して大変な意気ごみでござります。
領主 ただ月桂冠を得れば満足じゃと申しておるか。(しっかりと)よもや、そうではあるまいがな。
従者 ハイ、月桂冠と一緒に美しい贈物《かずけもの》を得るのじゃと申しておられます。
領主 いよいよ女子を手に入れる心と見える。(煩悶の情、寝台に仆《たお》れる。従者驚きて助け起こさんとす)
従者 どう致したのでござります。――その美しい贈物とは何
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