下さいよう。……ああ、舟が水門へ! あれあれあのように吸いこまれる! ええ、ええ、あのように吸いこまれる!
(舟水門に入らんとす、影の如き人々水門の端に立ち出で、喜び迎うる風をなし、はげしく手を上げて呼び招く)
女子 (悲しき声にて)ヨハナーンよ! (更に悲しく)さようなら!

[#ここから2字下げ]
人生《ひとのよ》を織り行く梭の
絶ゆる日に琴の音鳴らん。
[#ここで字下げ終わり]

ヨハナーンよ、さようなら!
少年 (両手を差し出し、姉を抱きかかえる如き風をなし)お姉様よう、(狂気の如く手を上下し)舟が水門へ吸いこまれる。……影のような人達がお姉様を引っぱりこむ! あの憎い恐い奴! ……舟がグルグルと渦巻いて。……舟首《へさき》がもう水門へ。……白いお姉様の着物が……黒い水が蛇のようにうねくって。……あッ! 舟が水門へ! ……お姉様よう!
女子 さようなら、可愛い坊や! ヨハナーン!

[#ここから2字下げ]
ひきかけて
[#ここで字下げ終わり]

(小舟水門の中に入る、影の如き人も巨人も一時に消え失す)
少年 ああれ! (と叫びを上げ)お姉様よう、……もうもう私は、……あんなに云
前へ 次へ
全154ページ中148ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング