織る人の世の象《さま》
ああかくて日を織り月を
年を織り命を織りて
人生《ひとのよ》を織り行く梭か、
(その日のために――)
[#ここで字下げ終わり]
少年 ええ、ええ、お姉様! お歌はよーっく覚えますよ。よーっく、よーっく覚えますよ。――だから此処へ帰って来て下さいなよう。……ああ舟が、舟がどんどん流れて行くんだもの! ええ、ええ、誰が舟をひっぱって行く! 誰が誰が!(水門の上の巨人の姿、ヨハナーンの眼に映る)彼奴《やいつ》が! 畜生! 彼奴が! お姉様を! 彼奴が水門の上でお姉様を呼んでいる。私をこんな所へ連れて来た巨《おっき》い恐いあの奴が! ……あれあれあのように広い灰色の衣を振ってお姉様を呼んでいる。……お姉様、早く睨《にら》んでおやり遊ばせ! 行かぬ行かぬと云っておやり遊ばせ! ……あれまだ呼んでいる! 畜生! いっくら呼んだってお姉様はやらぬぞ! 私がやらぬ私がやらぬ! やるものか、やるものか! ……けれども、ああ、ああお舟が流れて行く! 流れながら! ……私とお姉様との間が、こんなに遠く離れてしまった! ……早く、早く、お姉様舟を止めて下さいよう。……そして此処へ来て
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