》、
日の如き赤き喜《よろこび》
ああそれもまたたく消えて、
悲しみの青き綾糸
人の世の縦《たて》となりけり。
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少年 (塔を眺め)塔! 塔! 物凄い塔! 先刻《さっき》お姉様が、塔も何もないと云ったのはみんな嘘よ! 嘘よ! あの物凄い厭な塔が……お姉様! ええ、ええ、あの塔の中へ! お姉様が! ……お姉様よう! 行ってはいけない、行ってはいけない! 早く! 早く舟を漕ぎ返しておいでよう! 何故そんなにあお向いて臥《ふし》てばかりいらっしゃるの! 立って立って! お姉様! (と舟を止めんと身をあせり、格子をゆする)私が行く、私が行く! 私が行って舟を漕ぎ返してやる! ……待って、待って! (格子をたたき揺《ゆ》すれど格子は動かず!)
女子 ヨハナーン。

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白糸の清ければ
乙女心よ、
やがて染む緋や紫や
或はまた罪の恐れの
暗《やみ》に似てかぐろき色の
罪の黒糸
罪の黒糸
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ヨハナーンよ! ヨハナーンよ……お歌をよーっく覚えるんですよ、よーっく覚えるんですよ!

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さまざまの色ある糸の
綾を
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