す)ヨハナーン!
少年 お姉様! (姉の姿扉の彼方に消え、扉は音もなく刎《は》ね返りて堅く閉ず)
少年 お姉様! (馳せ行きて扉を擲《たた》く)お姉様! (ヨハナーンの呼び声のみ反響す)お姉様よう。……(泣く。泣く声のみ反響す)
お姉様! お姉様! お姉様よう!
(惨酷なる無音。――ヨハナーン再び気絶せるが如くに床上に仆れしまま動かず。その小さき体を青白き天井の光は照らす。三分間静。たちまち窓外より限りなき思慕の声にて幽《かすか》に幽にヨハナーンを呼ぶ)
女子の声 ヨハナーン!
(ヨハナーンふと心づきて頭を上げ室内を見廻す。――姉の姿見えず。自分の耳を疑うが如くなお四方を見廻す。――再び姉の声、此度はやや間近に聞こゆ)
女子の声 ヨハナーン!
(それに引きつづきて哀切の調べにて「その日のために」の歌を歌うが聞こゆ)
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美しき色ある糸の
機を織る人の一生
五色《いついろ》の色のさだめは
苧環《おだまき》の繰るにまかせて、
桧《ひ》の梭《さお》の飛び交うひまに
綾を織る罪や誉《ほまれ》や。
(その日のために――)
[#ここで字下げ終わり]
(ヨハナーン暫時その歌
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