並ぶ。巨人のみ中央に立つ。無音。鬼気。冷風。――然《しか》り冥府の如き冷たき光影! ヨハナーンは巨人の姿を見るや絶叫す)
少年 お姉様! あの人なの、あの人なの! 私を連れて来た人はあの人なの。(巨人を指し、後退《うしろじさ》りに退きしが、そのまま気絶して場内に仆《たお》る。姉は凍れる棒の如くに立つ)
巨人 (表情なき声)女よ! お前の祖先がお前を待っている。(と影の如き人々を振り返る。影の如き人々は一様に広き灰色の衣を左右に拡げ、女子を包むが如き風をなす。冷風衣の下より起こる)
巨人 彼等は塔に住む! 女よ! お前も塔へ行かねばならぬ。……女よ! 塔へ歩め!
(女子は無音にて首を垂れ、機より離れて巨人に近く進む)
巨人 (上手の扉を指さし)塔に歩め!
(巨人を先頭に影の如き人々列を造りて上手の口より出で去る。女子もまた影の人々の如く表情なき歩調にて列の最後より歩み行く。――女子この室より出でんとし、瞬間出口にて振り返り、仆れし愛弟を凝視す。その眼には無限の思慕の情涙と共に溢る……)
女子 (一声)ヨハナーン!
(この声と同時に仆れしヨハナーン飛び起きて姉の顔を見る。二人の視線正しく合
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