で、さあ昔のように緊《しっ》かりと抱っこしてあげましょう。……さあおいで。
少年 (後退《あとずさ》りして)いいえ、いいえ。
女子 恐いことはありませんよ、……さあ。(と手を差し出す)
少年 (それをくぐり)お姉様!
女子 ヨハナーンよ! 姉様を恋しがって来たのじゃありませんか、……さあ、その恋しい姉様が昔のように可愛がって抱いてやるんですよ。さあおいで、……お前さんをよく眠らせた子守歌を歌ってあげましょうね。
少年 (姉の傍へそっと行き、その手に抱かるる)お姉様! (と接吻す)お姉様!
女子 (ヨハナーンを数々《しばしば》接吻し)昔のように、さあしっかりと抱《だか》っておいで、もっと緊《しっ》かりと緊かりと。(ヨハナーンの顔を熟視し)姉様をようくようくごらんなさいよ。忘れぬように、忘れぬように。……ね、いつまでも忘れぬように。
少年 (姉の顔を見上げ)青い!
女子 ええ!
少年 青い!
女子 何が?
少年 青いの、お姉様のお顔が……そして冷たい! そして大変悲しそうなお眼だこと。お姉様! ……そしてね、お姉様のお手は骨のように堅い。骨のように。
女子 いいえ、いいえ、ヨハナーンや! 
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