あ》いて、二人はらくらくとこせたのよ。お姉様あの門は?
女子 影の人は何んと云うたの。
少年 熱い魂の門ですって。
女子 その三つの門を越して、この青白いお室《へや》へ来たんですね。……可愛そうなヨハナーンや! ……何も知らぬヨハナーンや! (間――涙と共に)ああ、ああ、可愛そうなヨハナーンや!
(二人無音。――墓の如き静寂。時々塔を吹く風の音と、水門に流れ入る水の音。……ヨハナーン、また痙攣的に泣き出す)
少年 (泣きながら)お姉様! 此処《ここ》が躍ってよ、大変躍ってよ、お母様やお姉様とお別れした日のように躍ってよ。……お姉様、お姉様! 大変躍ってよ。(胸を抑えて姉を凝視す。泣く)
女子 (最早詮方なきを知りしものの如く)ヨハナーン! (沈痛に)ヨハナーン!
少年 お姉様! 私は、(と四方を見て)私は。……(四方を見ておびえる。――姉も四方を見る。――青白き光線室内に充《み》つ)
少年 お姉様、青い光がだんだん濃くなって来てよ。……私の体がだんだん弱くなって来てよ。(塔を吹く風の音)お姉様! あの音?
女子 風の音です、何んでもない風の音です。……ヨハナーンや! さあ姉様の所へおい
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