待ってやと
玉の琴音をかき鳴す。
[#ここで字下げ終わり]
女子 まあまあ、そんな可愛いお歌を歌っていたのかぇ。
少年 このお歌を歌ったり弾いたりしていたのよ。……けれどもね、その中に私はこのお歌が嫌になったのよ。
女子 何故でしょうねぇ。そんなに可愛いお歌を。
少年 可愛いお歌! そうですわ。このお歌はほんとに可愛いお歌ですわね。けれど私、もうこんな可愛いお歌は厭になったんですの。……もっと、もっと、悲しいような、身にしみるお歌が弾きたくなったのよ。……それでね、お姉様!
女子 それで別のお歌を弾いたのかい。
少年 ええ、ええ、別のお歌を弾いたのよ。……あのお歌を弾いたのよ。「その日のために」って云うお歌を。
女子 まあ。
少年 けれども私、今も云った通り、あのお歌は節《ふし》だけは知っているけれども、文句は知らないんでしょう。だから私、ただ七弦琴に合わせて、節だけ鳴らしていたんですの。……歌は歌わないでね。……けれども私、その中に節だけでは物足らなくなって来たの、どうしてもお歌の文句を知りたくなったのよ。……そして、お姉様! そしてお姉様が恋しくなったのよ。……お姉様に逢いたく
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