、一緒にいつまでも居られるんでしょう。……そして、(笑い)だから、ほら、あの日は二度逢えぬお別れの日じゃなかったわ。
女子 いいえ、ヨハナーン。(と厳《おごそ》かなる言葉と態度を以てヨハナーンに迫る。ヨハナーン、何んとなく、一大事を明かさるるにはあらずやと思う如く、姉の顔を注視す。緊張せる沈黙)
女子 ね、ヨハナーンや。……今お前さんは、歌の節だけは知っているけれど、文句を知らぬと云ったじゃないの?
少年 ええ、ええ、お姉様、私文句は知らないのよ。
女子 ね、そうでしょう。……そしてお前さんはそのお歌の文句を知りたくて来たんでしょう。
少年 ええ、ええ、そうですよ。
女子 ね、そうでしょう。……だから二人は逢われたんです。……あの日お前がいま少し大きければ……。

少年 お姉様! (と深刻の眼つきと声)……恐《こわ》い!
女子 (四方を見て)いいえ、恐いことはありません。……ただね、二人は此処であのお歌を、いま一度歌うのです。
少年 (何となく総てを知りしが如き様子)お姉様が歌うのを私は聞いているの。
女子 ええ、ええ、そうです。
少年 (姉の手を取り)お姉様! そして私がそのお歌の文
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