う時が?
女子 ヨハナーンや、あのお歌はね、お母様が私共を棄てて遠い遠い所へ行かれる日(塔をチラリとすかし見て小声にて)あの塔の中へ行かれる日、(大きく)私に教えて行った歌ですよ。……もう二度逢えぬ名残りだと云ってね……。
少年 お姉様!
女子 ヨハナーンや、あのお歌はねぇ。この世の名残りに歌う歌ですよ……。
少年 そんな悲しいお歌を、何故あの日お姉様は歌ったの。
女子 歌う日が来たからですよ。
少年 二度と逢えぬお別れの日が、あの時来たの。
女子 ええ、ええ、あの日がそうです。
少年 お姉様! (と一寸笑い)それだのに今日また二人は逢えたねぇ。……お姉様と私と……。
女子 ヨハナーンや、それはねぇ。
少年 二人は逢われたわ。……そしていつまでも一緒に居られるのよ。此処にねぇ……。
女子 (独言の如く)一緒に居られるって、一緒に居られるって。……ああヨハナーンや、お前さんは、ほんとにそう思うの……。
少年 だってお姉様!
女子 (思い返し)ええ、ええ私共二人はいつまでも一緒に居ることが出来ますとも。……ええ、ええ、居ることが出来ますとも。……だがね、ヨハナーンや。
少年 (無邪気に)ね
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